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またしても佐就。

今回は戦国時代です。

なかなか長いです。

ではいつものように続きからどうぞ。
▽Let's party!

 

もし、なんてもの考えるだけ無駄。
だって考えたって何も変わらない。
でも、それでも今だけは考えたい。

 

もし、―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

落ちる声

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

溜まる政務。
次の戦での策立て。
他国との関係。

考えなければならぬことは山ほどある。
その仕事の多さに流石の自分でも大きな溜息を吐きたくなる。
空気でも入れ替えねば気分も変わらない、とばかりにぴったりと閉じられた中庭へと繋がる襖を開く。
その瞬間、

 

ひゅうっ

 

と大きく風が部屋に入った。
「あ、・・・。」
その風を感じる間もなく文机に重ねられた書類が一枚煽られる。
ふわり、と重さなく空を飛ぶように浮いたソレはそのまま中庭に出て、
一番高い木に引っ掛かってしまった。
「・・・・・・。」
どうしたものかと引っ掛かった書類を見つめる。
それは勿論必要なもので、しかし人を呼んで取ってもらうのも何だか癪で。
縁側に出てぼんやりとだが睨むように、誇るように高く聳える木を見つめた。

 


どれくらい、そうしていただろうか。
引っ掛かっていた書類が木の、枝の間へと吸い込まれるようにして入ってしまった。
「・・・?」
先刻のような風もない。
木の中に鳥でも居て引っ掛かった紙を突いたのだろうか、
目の前で消えた紙のあった場所に視線をやりながら眉に皺を寄せながら目を細める。

「え、・・・。」


ひらり、と木の枝間に消えた筈の書類が今度は風に煽られて迷子にならぬよう、
小さな錘をつけられて木の枝の中から出てこちらに舞い降りた。
完璧な狙いで書類は手の中に戻ってきた。
このような所業、鳥ができる筈がない。
あの木の中に何者かが潜んでいる。
それが判ると木に向かってキツイ一瞥をくれてやる。


「安心しなって。何もしないからさ、毛利サン。」


何者だ、と声をかけようとするよりも早く木の中から声がした。
軽い調子の声に少しだけ拍子抜けする。
しかしそんな様子を見せてはいけない。
此処は毛利の土地、そして木の中の者は不逞な輩。
決して油断はならぬのだ。

「貴様、何者だ。」

「何でしょう?」

「何用だ。」

「何だと思う?」

軽い声と同様に、飄々とした言葉しか返してこない相手に、
苛々として襖を閉めようとする。
閉め切る直前に、ガサリと木の枝が揺れる音がした。


「次からは困ったらちゃんと人呼びなよ。」

「黙れ。そして出て行け。」


ぱしんと態と大きな音をさせて襖を閉め切る。
くすくすと笑う声が聞こえた気がしたが気のせいだということにしておいた。
そして、何故だかは判らぬがこのことを誰にも言わなかった。

 

 

 


翌日、食べ終えた昼餉の膳を片付けられた後縁側に出て食後の茶を啜る。
熱くやや渋い茶を喉に通し、はぁと息を吐くと肩から余分な力が抜ける。
気が休まるというのはこういうことを言うのだろう、などぼんやりと考える。
広めに作られた中庭を見渡し、空を仰ぐ。
きらきらと輝く太陽の姿に、無意識に顔が綻ぶ。

 


「今日はご機嫌みたいだねェ?」

 


静かに葉が微かにざわめく音しかしなかった中庭に、自分のものではない声がした。
部屋には呼ばない限り決して人は来ないし近付きもしない。
そして嫌なことに、その声には聞き覚えがあった。

「また、貴様か。」
「あら、俺様に気付いた途端ご機嫌斜め?」
「不逞な侵入者に機嫌が良くなる馬鹿などおらぬわ。」
「そんなツンケンしないでよ。危害は加えないからさ。」
「信用などできるものか。」
「厳しいお言葉で。」
「ふん。」

軽い言葉に飄々とした口調。
それに加えて姿も見せぬ輩と何故自分が怒鳴りもせずに
会話していることが不思議でならなかった。
確かに、掴みどころのない素性不明の相手に苛立ちを覚えなくはない。
しかし、ツマラナイ毎日の中に不意に現れた彼。
その何処か非日常的な存在にひっそりと心が揺れつつもあった。

 

 


また翌日、前日と同じくらいの刻に男は声をかけてきた。

「まだいたのか。」
「べっつに木の中に住んでるワケじゃないぜ?」
「知っておるわ。」
「アンタ、そんな顔もできるんだね。」
「どういう意味だ。」
「判んないんなら内緒。」
「・・・散らすぞ。」
「怒んないの。さっきみたいに笑ってた方が綺麗なのに。」
「笑ってた?我が?」
「笑ってたよ。」

会話は、前日よりも確実に柔らかく長くなっていた。
この自分がこんなにもあっさりと他人への警戒を解くのは初めてだった。
そうさせる何かが、この男にはあった。
それと、この男と話している時は何故か力を入れなくてよかった。
何故だろうか。
この男が誰とも知れない他人だからだろうか。
この男が自分に対して他の者のような態度を取らぬからだろうか。
この男が、姿を見せないからであろうか。

その答えは、判らない。

 

 

 


また翌日、同じ刻限に外に出た。
自分が外に出るとすぐにかかった声が、今日は無い。
どうしたものかと思い、「おらぬのか。」と声をかけた。
その自分の声が余りにもか細くて弱弱しいもので何だか笑えた。

 


結局、その日男の声はなかった。

 

 

 


また翌日、同様にして縁側で声をかけるが、やはり男はいなかった。
背の高い木が芯を失ったかのように風に揺られていた。

 

 

 

 

 

一週間経った。
毎日声をかけるのは止めた。

 

 

 

 


二週間経った。
政務の忙しさで男のことなど偶に思い出すくらいになっていた。

 

 

 

 

 


一月経った。
山のようにあった政務をやっと終え、縁側に出て日輪を拝む。
凝り固まった肩も腰も、日輪を拝めば楽になったような気がした。

 

 

「久しぶり。」

 

 

不意に声がした。
聞き紛う筈がない。
自分はこの声をこんなにも焦がれていたのだろうか。
男の声が耳に反芻している。


「貴様・・・。」

 

「忘れちまった?俺様アンタのコトずっと考えてたんだけど。」

 

一月前と寸分変わらぬ調子の良い口ぶり、声。
ずっとずっと雲に隠されていた日輪をやっとの思いで拝めたような、そんな気持ち。


「貴様のようなおかしな男、忘れたくても忘れる筈がなかろう。」


その確かな存在に、何故だか泣きたくなった。


「それはそれは。喜ぶべきなワケ?」
「好きにしろ。」


ザァッと中庭に風が吹き抜ける。
髪をふわりと撫で上げ、葉をさわさわと揺らす。
揺れる葉の隙間から男の姿が見えるかと目を凝らしたが、人影すら見えなかった。

「こんなことで俺様が見られるようなヘマするワケないっしょ。」

風が止み、自分の行動を見ていたらしい男がクスクスと笑いながら言った。

「貴様、やはり忍か何かか。」
「優秀な忍だよ。」
「自分で言うことか愚か者。」

一月ぶりに会ったその日、それまでよりも長く話した。
他人との会話が楽しいと思ったのは、何時以来のことだろう。
何処の忍かも判らぬ男に、確実に心を開いていた。

 


それから三日ほど、同じ時刻に忍は声をかけてきた。
その時刻に自分が出て来ないとは思わぬのだろうか。
だが、やはり時刻がくると襖を開け縁側に出ていた。
三日が過ぎると忍はまた来なくなった。
曰く、
『俺様、本拠地がこっからかなり距離あんの。だから月一でしか来れないんだよね。』
とのこと。
ならば何故そうまでして来てる、と確かその後に訊ねたら、
『何でだと思う、毛利サンは。俺は正直此処周辺の情報には興味は無い、って言ったら判るだろ?』
と回りくどい返事を返された。
情報に興味がないのならば、何故忍は長い距離を経てこの地に来ているのだろう。
幾つもの策を立てたこの頭をもってしてでもそれは判らなかった。

 

 

 

 

 

 

 


また、一月経った。
前の月に忍が来たのは丁度今頃だったろうか。
そんなことを考える自分はあの声を待っているのだろうか。

しかし、連日外はしとしとと雨が降り続いていた。
そんな中、忍である男は駆けて来るだろうか。
加えて、運が悪いことに自分は今風邪で床に臥せっている。
中庭に続く襖が遠く感じる。


―― この月は会えぬな。


熱で働かない頭でぼんやりと考える。
すると、外で雨音に紛れバサリと何かが空を切る音がした。

「・・・?・・・」

重たく、言うことをきかない身体を無理矢理起こし、
畳みを這い、襖にやっとのことで手を届かせた。
いつもより重たく感じるそれを開くと、目の前には薄暗い雨の世界。


その庭に、見慣れぬ黒い影が立っていた。
影は大きな鴉を腕に乗せ、雨粒に身を晒していた。

 


「ゴメンね、体調良くないみたいだね。」

 


目を丸くした。
かけられた声は、いつもよりも幾分か優しく、しかし聞き間違えるワケのない、
そして思っていた以上に待ち焦がれていた、忍の声だった。
言うと同時にこちらを向いた


自分は、初めて相手の姿を目にした。

 


「初めまして、毛利元就サン。」


「貴様、・・・があの忍か・・・?」


「風邪、悪化するよ。中入って。」


「そなたも濡れておろう、入るが良い。」


「駄目だよ。俺様部外者だから。」


「入れと言っておる。此処には呼ばぬ限り何人も来ぬ。」

 


どくどくと、今までにないほどに心臓が脈打っている。
目の前の男に文字通り目を奪われそうだった。
男の姿に声や口調のままである、という感覚を覚えた。
しかし、今はそんなところに意識を遣っている場合ではない。
いくら忍とて恐らく長時間雨に身を晒してなどいたら、
きっと風邪をひく。
自分がこんなにも必死になって素性のしれぬ相手を心配している姿など
家族にも家臣にも絶対に見られたくない。
自分でも笑い飛ばしたいくらいなのだ。

でも、それでも自分はこの忍が気になるのだ。

 

我は、熱があるのも身体が重いのも外が雨なのも
足袋しか履いていないのも相手が恐らく敵であることも構わず、
庭にいる忍の腕を引いた。


「っわ、・・・。」


予想外のことに忍は小さく声を上げる。
飄々としていない姿に微かに笑みが零れた。


引いた腕をそのままに、男を部屋の中まで引きずり込んだ。
畳みにぽたぽたと雨の雫が落ちて染みを作っていく。
明るいところで見た男の顔は思っていたよりも端整なもので、
そして男はその顔を間抜けにも呆然とさせたままだった。


「拭け。」


箪笥から布を出して放ってやる。
男は受け取るも一向に雨粒を拭おうとしない。

「早く拭かぬか。」
「何で、俺を入れたんだ。」
「・・・・・・。」

そんなもの自分の方が知りたかった。
ただ、あのままこの男を雨の降る中に晒しておくのが嫌だっただけだ。
ただ、それだけなのだ。

「アンタ、噂とは違って優しいトコあんだね。」
「優しくなどないわ。」

それは本当のことだ。
自分と優しい、などはもっとも掛け離れた言葉であることなど判っている。

拭き終わると男は布を丁寧に畳んだ。

「風邪、ひいてんだろ。寝てなよ。」

そっと、身体を布団に促される。
初めて触れた忍は、雨に濡れて冷たかったがほんのりとした温かさもあった。
布団に入ると忍はそっと額にかかる髪を払ってくれた。

 

「笑っちまう話なんだけどさ。俺、アンタが好きなんだよね。」

「なんだと・・・・・・?」


余りにも唐突すぎる言葉に声が詰まる。
男は自嘲気味に笑いながらそっと髪を撫でる。
その、柔らかい触れ方が何とも心地よかった。


「何でだろうな。隠れながら話してるうちに、アンタが噂と違うことに気付いて。」

「そしたら話してんのが楽しくなって何回も来てみて。」

「好きなんだ、って気付いた。」


男は撫でる手を離し立ち上がった。

 

―― あぁ、『すき』か。
   あの、待っているときの焦がれるような気持ち、
    雨の中にこやつを晒したくないと思った気持ち、


この男の言う『すき』に当て嵌まるだろうか。

 

男は背を向けて立ったままでいた。


「もし、もっと違う時代に逢ってたら、もっとちゃんとアンタと触れ合えたかな。」


ぽつりと、零すように間違って落としてしまったかのように男が呟いた。

 

 


「今の時代でも、きちんと来ればよかろう。」

 

 

感情の見えないその背中にそっと語りかけるように言う。
男は自分の言葉にぴくりと肩を揺らした。

 


「我は明日も待つぞ、そなたが来るのを。」

 

自分の言葉を聞いたのか、男は襖に手をかけた。

 


「今度、ちゃんと客として来たらアンタが迎えてくれる?」

「何を言っておる。我が迎えずとも我の元まで来い。」

そう、言ってやると忍はくっくっと可笑しそうに肩を揺らして笑い、
襖を開き指笛を吹いた。
男の前に、一羽の大きな鴉が舞い降りた。
先程腕に居た鴉のようだ。


「じゃ、今度は土産付きでくるよ。」
「良い物を持ってくるがいい。」


男はそのまま鴉に掴まり、暗い空に消えていった。
自分はその姿を見送ることなく目を閉じた。
何処か、満たされきった想いを抱えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「猿飛佐助、って聞こえたら飛んできてよ、元就。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


穏やかな眠りに就く直前、何処からか、優しく囁く声を聞いた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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菊川望
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百合にゃん双子斬り込み隊長・文字書き
趣味:
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自己紹介:
好きなもの:双子、百合にゃん、柄の悪い奴、パロetc...

好きな漫画ゲーム等:戦国BASARA、戦国BASARA2、銀魂、落乱(忍たま)、種、種運命、薔薇乙女、ブラック・ラグーンetc...
好きなキャラ(上記ジャンルより):政宗、元就、元親、佐助、小十郎、銀時、土方、高杉、桂、きり丸、団蔵、久々知、タカ丸、鉢屋、伊作、仙蔵、文次郎、食満、土井先生、利吉、アスラン、ファントムペイン、真紅、翠星石、蒼星石、水銀燈、ロック、レヴィ、ベニー

BASARA愛CP:伊達受全般、佐就

好きな声優:諏訪部順一、中井和哉、豊口めぐみ

好きな歌手:ALI PROJECT、angela、T.M.Revolution、redballoon
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